顔写真のないプロフィール③

カラオケ連れ出しからのグダ崩せずの続き…

その後1アポ挟んで、4回目のアポ。

色々ある彼女だったが、どうしてもGetしたかった。


2回目のアポの際にグイグイいったので、3回目のアポは逆に引いてみた。

それが功を奏したかはわからないが、アポ終盤に、

「次は、仕事休むから絶対開けといてね。」と念を押され会う約束をして別れた。


仕事を休む=夜が空いている


いける!!


確信した俺は、アパホテルのアプリをダウンロードし4回目のアポに備えた。


アポ3日前、

「仕事になっちゃった。」

とLINEがくる。

いや、仕事入れたんだろ。と思ったが抑えた。


アポ2日前、

「昼も用事できちゃった。」


嫌われたか?

電話したり、LINEをしていてもなんだかしっくりこない。

「OKわかった。またね。」とあえて素っ気なく返す。


前日に「やっぱり明日会えるよ。」と連絡がくる。


よくわからないけど、女ってこんな感じか、その時はそのくらいに思っていた。

今考えると鈍すぎた。


当日、待ち合わせ場所に彼女は少し遅れてやってきた。

いつもより強く握ってくる左手。
そしていつもよりくっついてくる。

会う前に抱えていた不安や心配がすーっとはけていく。

『今日は絶対にキスをする。』と心に誓う。


「あの芝生の真ん中でスクワットしてー」

「よし、じゃあ抱っこしてスクワットしてあげるよ」

「恥ずかしいからやめて!(笑)」


Lineではテンションが低かったが、会うと元気な彼女。


一緒に昼食を食べる。

食後にコーヒーを飲む。

いつもより、べったり。
エスカレーターではマスク越しのキス。

『今日はこのマスクを外させてキスをする。』

改めて心に誓う俺。


『俺はアルファだ。』


でも、今じゃない。じっくり行こう。



娯楽施設に到着。

リラックススペースで、丸いクッションを乱暴に敷いて2人で横になる。

くっついたり離れたり。


しばらくすると左腕が痛いという彼女。

「昨日の仕事かなぁ…」

「大丈夫?」

「あっ昨日バッティングセンターいったんだった!それかも!」


天然な彼女。察する俺。

こんな華奢な子が一人でバッティングセンターに行くわけがない。


盲点だった。

食いつきがあるから俺だけだと思ってた。

ゆっくり信頼関係を構築してグダを崩していけばいいと思っていた。


他の男の存在を全く想定に入れてなかった。


でもここで取り乱してはいけない。


『俺はアルファだ。』


「バットこうやってふったでしょ?こんな風に。」

「ちょっと!笑」




沈黙する彼女。



彼女の顔を見ると涙目になっていた。

「どうした?」

「話がある…」


精一杯、優しい言葉が出るように、一呼吸置き、自分を落ち着かせて言った。

「うん、話してみて…」

耐えきれなくなったのか、別の話をしようとする彼女を制してもう一度言う。

「話してみて。」


「実は、付き合ってほしいと言ってくれた人がいて。その人と同棲を考えてるんだ。…だからもう…会えないかも。そろそろ子供も欲しいし。あなたは結婚考えてないでしょ。」


俺は、あらかじめ、やりたいことがあるから恋愛の優先順位はそんなに高くないことを伝えていた。結婚は考えていないことも。


だけど、そこまで急いでいるとは思っていなかった。


俺の考えを伝える。


「じゃあ友達にならない?私はあなたのこと応援したいと思っているし、好きだし一緒に居たいけど、結婚して子供も欲しいの。共通の趣味持とうよ!そしてこれからは友達として会おう!手はつなげないけど…」


やられたぜ…


「その人はどんな人なの?」

彼女から語られる“彼”像は、

趣味、性格、年齢、仕事、背丈、出逢った時期までほとんど俺と一緒。

もう一人の俺かと思ってしまう。


「そっか…」


俺は負けたのか…


ため息をこらえる。
落ちちゃダメだ、なぜなら…


『俺はアルファだから。』


必死に考える。アルファならどうするか。


重い空気を変えるはずだ。


ひとまず“彼”にあだ名をつけることにした。


「バスケやってたんだったら、八村にしよう。」

「八村君はさぁ・・・」と話し続ける俺。


背負っていたものを話して楽になったのか、あだ名をつけたことで軽くなったのか彼女に笑みが戻ってきた。


俺は自分なりのアルファ像をイメージしては身体に取り込み、背伸びし続けた。


「じゃあ…今度会う時、俺も可愛い彼女紹介するわ。」


明るく振る舞うが、心の中は段々と諦めに支配されつつあった。


マスク越しのキス止まり…ここで終わっちゃうのか。

会うのもきっと最後。

悔しいけど、俺は負けたんだな。


一緒に居れる時間は残り2時間ほど。

1分1秒の価値が跳ね上がる。

この施設を二人とも最高の笑顔で出れることを祈り、自分がその世界にワープするようなイメージをした。


彼女は、話してスッキリしたからか、俺が咎めなかったから安心したのかウトウトしている。


俺は走馬灯のように出会ってから今までを回想していた。


初めて会って、思い切って手をつないで、2回目の時はエスカレータで…カラオケで…

今日も手を握ってきたから今日こそはイケると思ったんだけどなー。

これからは友達として…か。



(ん?違和感がある。)



(本当に負けか?)



(なんだかんだ言っても、サインは出続けている。)



(現に彼女は俺の隣で身体をくっつけながらウトウトしている。)



(闇の中に光が見えてきた。)



(ここは引いちゃダメだ。むしろ攻めないといけない。)



(そして彼女もきっとそれを望んでいる。)



『俺は負けていない、むしろ勝ってる。』


『俺はアルファだ!!』


『今日は絶対キスをする。』



肚が決まり、迷いがなくなった。


マスクはお互い外れている。


彼女の潤んだ瞳。


でも涙じゃない。

絡まる舌。


暗号解除。




「今日、仕事行きたくなくなったきた。」

「休めよ。」

「どうするの?」

「一緒に居たい。」

「何もしないからね。何もしないって約束して…」


「早く休むって電話してきな。」


「…電話してくる。なんか本当に腕が痛くなってきた。」




昨日バッティングセンターに行ってくれてありがとう。


彼女は腕が痛くて今日はお休みだ。


女だなぁ、と思った。


そんなことを思っていると、突然クッションが飛んでくる。

彼女が悪戯な笑顔でこっちを見ている。

俺は寝そべったままクッションを投げ返す。

修学旅行枕投げのテンション。

きゃっきゃ喜ぶ彼女。


しばらくクッションを投げ合った後に、隣に寝そべりキスをしてきた。


「初めて仕事休んだんだけど。」



『今日は抱く!』目標を上方修正!!


重い空気からキスで一変、

この後の流れをお互いに承諾したことからくる、ふんわりとした安堵感が2人のドキドキを包んでいた。



「屋外スペース行ってみない?」

「うん。」


彼女を屋外に誘った。

星が見れたら最高だ。

屋外スペースに向かう途中で彼女をおんぶした。


彼女をおんぶしたまま、わざと目立つように、人前を通り、段差のあるところを通り、スピードを早めたり緩めたり。

彼女は恥ずかしそうに、照れながらとても楽しそうにしていた。


芝生の屋外スペースは、僕たち2人のために用意されたかのように、誰もいなかった。


中央の盛り上がったところに立ち彼女をおんぶしたままスクワットをした。


「1、2、3、4・・・ハイ!数えて!」

「この人ネジ外れてる(笑)」


彼女は俺がスクワットしている間、声を出してはしゃいでいた。



寝転んで空を見る。

地上が明るいせいか、星は1つも見れなかった。

雲と空は半々だった。



幸せだと思った。



祈ったことが叶った。

彼女は笑顔でとても楽しんでる。


温泉に入り汗を流し、帰りの送迎バスを待つ。



以前の俺なら、他の男の存在を知った時点で、

「幸せになってね。ありがとう。楽しかったよ。」

と、悲しさのにじむ表情で感謝を伝え別れた後に、失恋ソングを聞きながら帰っていたことだろう。

そんなもう一つの現実を想像した。


俺はもうそんな優男じゃない。


男と同棲するからと言わてれも、ひるまずに、仕事を休ませ、今夜一緒に過ごす。


『俺はアルファだ。』


ホテルに向かう途中、道端のお地蔵さんに「何もしませんように」とお願いする彼女。



検温を済ませホテin。


「ねぇ、俺ハゲでるけど一緒に居て気にならないの?」

「私は、会話が楽しい人が好きなの。だから別に気にしてないよ。」

「そっか。」


弱気に思われるかもしれないけど、どうしても聞いておきたかった。



何もしないでねと言っておきながら、シャワーを浴びるとバスタオル一枚に包まりベットに入っている彼女。


下着なんかつけちゃいない。


教科書ような形式グダ。


言葉ではなく、行動から読み解け。と何かに書いてあった。



言葉では抵抗するが、身体に力は全く入っていない。

されるがまま。


人を好きになると奥手になり、自分から誘うことはなく、リスクを取らず、相手の誘いに乗る恋愛しかしてこなかった俺が、抱きたいと思える子を、自分から打診して手をつなぎ、カラオケでキスを断られ、結婚を考えて同棲するからもう会えないと言われてもひっくり返し、4回目のアポでようやくキスをし、ホテルに誘い抱いた。




越えた。





親指に中指と薬指をつけ、人差し指と小指を伸ばし、動物に見立てた手で話しかけてくる。


アプリではじめてメッセージのやり取りをしてから、今までを回想するかのように。

俺も右手を動物にして会話をする。

「はじめまして」

「はじめまして」


「○○さんは天然なんですか?笑」

「○○君は聡明な感じがします。笑」



「良かったら今度電話してみましょう!」

「夜だったらいいですよ♪」


楽しい時間。


動物の手をほどき、今度は真面目な話。

「来週から、彼と一緒に住むからね…。」

俺を試すかのような言葉。


彼女と一緒に居るのか、居ないのか。

いつの間にか俺が選ぶ側に回っていた。

「うん。」

とだけ返す。


「うまくいかないなー。」

と彼女は言った。


「八村君はドキドキはしないけど安心するの。」


帰りの改札、

「なんか1日しか一緒に居ないのに3日分ぐらいの濃さだったよ。」


初めて会ったときと同じワンピースの彼女。

胸には「Maby next time」と書かれていた。